本年度は前年度に提案した改良熱処理(493KIQ-Aus 及び 533KIQ-Aus)(それぞれMs点下の温度域493K及び533Kで中断焼入れした後直ちに引き上げその後所定の時間オーステンパ処理を行う熱処理)がFe-0.6C-1.5Si-0.8Mn鋼の破壊じん性と疲れ特性に及ぼす効果について調べた.その結果を通常のオーステンパ(Con-Aus)と通常の焼入焼き戻し処理(QT)で達成される機械特性と比較検討した。弾塑性破壊じん性値(J_<IC>)はCT試験片を用いASTME-E-813に準拠して求めた。疲れ強さは平滑及び切欠き試験片を用い最大容量39.2Jのシェンク型曲げ疲れ試験機を使用して決定した。き裂伝播速度はCT試験片を用い電気サーボ式試験器を使用して荷重制御で室温、大気中にて測定した。得られた結果は次のように要約される。(1)533KIQ-Aus鋼ではCon-Aus鋼及びQT鋼に比較してJ_<IC>が向上した。(2)493KIQ-Aus鋼では両鋼に比較してJ_<IC>が低下した。(3)このことは前者では塑性変形中に変態誘起塑性(TRIP)効果が有効に働くが、後者ではTRIP効果よりも引上げ焼入れによって導入された20%の焼戻しマルテンサイトによるぜい化作用が大きく影響することによる。(4)TRIP効果が有効的に働くと考えられる平滑試験片による場合Con-Aus鋼の疲れ強さはCon-Aus鋼及びQT鋼に比較して著しく向上した。すなわち、疲れ強さはCon-Aus鋼では約300MPaであるのに対して、533KIQ-Aus鋼では約420MPa、493KIQ-Aus鋼では約750MPaの高い値が得られた。(5)塑性域が切欠き下に限定される切欠き試験片の場合には、IQ-Aus鋼の疲れ強さはQT鋼のそれに比較して大きいが、Con-Aus鋼と比較するとあまり差がなかった。(4)IQ-Aus鋼とCon-Aus鋼のき裂伝ぱ速度を測定した結果、両者の間にほとんど差が認められなかった。
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