本年度は破壊靭性測定用試験片をホットプレス装置で作製し、き裂進展のその場観察、AE測定と共に、破壊靭性試験を行った。ホットプレス状態をHP材、その後1100℃で溶体化処理した材料をST材、ならびにST材を800℃で時効処理したSTA材の3種類の材料を供試材とする。HP材、ST材、STA材の破壊靭性はそれぞれ12.0、22.1、9.2MPa√mとなった。この破壊靭性の相違は組織の違いによるき裂進展挙動の相違として反映されている。分散物はHP材、ST材、STA材では、Mo_2NiB_2であるが、母相はST材では破壊靭性と延性の高いNi過飽和固溶体、STA材では金属間化合物のNi_3Moである。き裂進展のその場観察では、STA材とHP材において、き裂の進展はほぼ直線的である。硼化物近傍で停止することなく粒内割れを呈している。一方、ST材では、き裂は比較的蛇行している。硼化物近傍では、一時停留し、粒内を進展せず、その界面を進展している。破面観察はき裂進展のその場観察と類似し、STA材とHPでは、擬へき開割れを呈し、STA材では、微小デインプル割れを呈していた。破壊靭性試験中の同時に測定したAEでは、STA材とHP材では、破断荷重手前でAEは急増するのに対し、ST材では破断荷重の相当以前より微小デインプル割れに伴なうAEが観察された。いずれにしても、破壊靭性、き裂進展のその場観察、AE測定、破面観察の結果がほぼ対応していた。
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