試験片を非常に低速に変形させるSSRT試験の破断時間や破断変形量より材料のSCC感受性の評価が行われている。しかしこの試験は応力腐食割れき裂伝播速度が考慮されておらず、この試験法を補強するためにき裂伝播速度の計測が不可欠である。き裂が開始しない応力拡大係数として定義されるKISCC試験も、その判定には500時間という有限な値を用いており50年を目途とする原子炉配管の応力腐食割れの保障のには不十分で、き裂伝播速度に基づく検討が必要である。この研究は布村の開発したリング状の試験片を用いた多試験片応力腐食割れ試験機によって、原子炉配管に用いられる核グレードステンレス鋼SUS316NGの高圧純水中の応力腐食割れき裂伝播速度を求めることを最終の目標とした。リング試験片の特徴はき裂を荷重軸方向と一致させて圧縮荷重を加えたときに比較的広いき裂長さの範囲でき裂長さにかかわらずK値が一定であるというもので、解析的にも実験的にも確認されている。現在原子炉材料の応力腐食割れ試験はCT型試験片を用いて行われているが、高圧純水環境での試験は大きな試験容器を含む高価な設備が必要で、単数しか処理出来ず、多数のデータを得るには不向きである。上のリング試験片を用いれば小型化と多試験片化が理論的に可能である。平成8年度で試験設備の作製とアルミ合金による測定をほぼ終え、平成9年度は模擬高圧容器中におけるSUS316鋼のき裂伝播速度測定に着手した。機械的試験には成功したがき裂計測に難点が残りまだ目的とするデータ収録に着手出来ない。平成8年度で用いた電位差法を試験片を約1/2に縮尺された本試験にそのまま転用したところノイズレベルが実用域を越えたしまった。測定電子システムの改善とあわせて、シェルパタン法、AE法など各法の併用を検討している。
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