研究概要 |
本研究は、遷移金属合金の耐食性に大きく関与する不働態皮膜の電子状態を、光照射を利用した電気化学的手法およびX線光電子分光などにより調べ、実際の耐食機能との比較から、合金の耐食機能の本質を明らかにすることを目的としている。本研究では、代表的な遷移金属であるチタン合金に注目している。本年度は、純チタンおよび、周期律表の4d(Zr,NbおよびMo)5d(Hf,TaおよびW)遷移金属元素をそれぞれ5at%づつ添加した合金を、トリアーク炉により溶製した。作製した合金試料について、0.5mol硫酸水溶液中でアノード分極測定ならびに、単色化したキセノンランプの光を照射し、光電流の測定を行った。現在までのところ、以下の様な結果が得られている。 Ti合金のアノード分極測定により求めた不働態皮膜の安定性と関連する不働態保持電流密度は、添加した合金元素の種類によって大きく変化する。また、Ti合金の不働態皮膜に光を照射すると、正の光電流を生じる。すなわち、皮膜自体がn型の半導体特性を持っているが、合金元素の添加によってこの基本的特性には変化は生じない。照射する光の波長を変化させて求めた光電流スペクトルの形状は、純Tiで得られるものと比べてそれほど大きな変化はなく、皮膜のバンドギャップは4.4eV付近である。ただし、Moを添加した場合には、4.1eV付近にまで低下する。光電流を打ち消すのに必要なフラットバンド電位も添加元素によって大きく変化する。NbやTaを添加した場合は卑に、Moを添加した場合には貴になる。フラットバンド電位の変化と不働態保持電流密度との間には相関関係が認められ、電位の卑なものほど不働態保持電流密度は低く、安定な皮膜が形成されていることを示している。現在、これら合金試料について、硫酸水溶液での浸漬腐食試験が継続中である。
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