本研究では、溶射粒子の偏平に対する凝固および動的ぬれの影響解明を試みた。初年度は、1)偏平に対する基材熱伝導率および動的ぬれの影響解明、2)模擬実験への着手、を課題とした。初めに粒子/基材界面ぬれ条件を固定し、偏平挙動に及ぼす基材熱伝導率の影響を調査した結果、基材熱伝導率の大きい場合ほどスプラッシュ状からディスク状への偏平形態遷移温度が上昇することから、粒子偏平に対し衝突時初期凝固が大きく影響するとのこれまでの知見を裏付けた。次に、基材熱伝導率一定の下に粒子/基材界面ぬれ性の影響を調査した結果、膜金属の活性な場合ほど遷移温度が高かったことから、粒子偏平に対し動的ぬれの影響は無視できないことを明らかにした。また新規に導入した高周波誘導加熱装置による自由落下液滴の模擬実験に着手した。 二年度は、1)模擬実験での液滴偏平挙動のより詳細な観察、2)溶射粒子偏平挙動のその場観察、を試みた。ただし模擬実験および実溶射実験での基材裏面からの凝固・偏平挙動のその場観察は、トリガー機構の作製が困難であり、今後の課題となった。模擬実験において液滴偏平率と各種理論曲線とを比較した結果、先進的なRangelらの推定曲線においても、なお実験値との乖離が認められ、さらなる改良の必要性を指摘した。また液滴偏平挙動のその場観察より、スプラッシュ状偏平では液滴は極めて高い加速度の下に偏平すること、またスプラッシュ状液滴の裏面は極めて多孔質な急速凝固組織であることなどから、スプラッシュ状偏平は、基材衝突直後に形成される断熱性に富む急速凝固層が液滴の温度降下を遅らせ、粘性の小さい運動エネルギに溢れる液滴が周囲にはじける現象であることを明らかにした。ただし、遷移温度近傍において偏平形態の急激に遷移する原因解明は、さらなる検討課題となった。
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