本研究は、軽金属として重要なマグネシウムの耐食性に直接影響をおよぼす表面酸化皮膜の微細構造の解析と成長機構の基礎的解明を行うことを目的とした。純マグネシウムとマグネシウム合金の自然酸化皮膜、および化成処理、陽極酸化皮膜の成長挙動と生成機構の検討を行った結果、以下の結論が得られた。 1)純マグネシウムの新生面上に大気中で生成した酸化皮膜は連続的で均一な非晶質の皮膜で、平均厚さは約23nmであった。MgAl合金の場合も皮膜は非晶質で均一な外観を持つが、含有Al量の増加に伴って平均膜厚は減少した。Alの添加によるMgAl合金の耐食性の増加は、素地付近の緻密で保護性の高いアルミニウム酸化物割合の増加によると推定される。純水中では水和酸化物/初期自然酸化膜/薄片状水和物の3層構造を持つ皮膜が生成し、かつ薄片状水和物外層の厚さはマグネシウム合金素地の水への溶解が抑御されるため含有Al量が多いほど薄くなった。MgAlZnおよびMgAlRE(RE:希土類元素)3元合金上に生成する水和皮膜も、MgAl2元合金と同様に3層構造を持っていた。アルミニウムに加えて亜鉛と希土類元素はそれぞれの酸化皮膜中に取り込まれ、特に表面の不働態性の制御因子である水和を抑制し、内層からのマグネシウムの拡散抵抗を高めることによって湿式環境中での安定性を増大している。 陽極酸化膜も化成処理膜も皮膜の成長はアノード反応による皮膜/素地界面でのMgF2とMgOx(OH)yの生成および溶液中からのNaMgF3とCr2O3の析出に支配される。ダイカスト合金の場合は相当量のAlOx(OH)yと少量のFeOx(OH)yおよびMn4+が含まれる。化成処理においては粒界がカソードサイトとして働く。
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