弥生時代に中国や朝鮮半島から我が国にもたらされた金工技術は、古墳時代を経て奈良時代には完成度の高い作品を生み出すまでになる。その後、和様化と多様化がはかられた平安時代から中世期を経て江戸時代になると、刀装具を中心に極めて高度に発展した技術を獲得するに至った。しかし、江戸時代の金工技術が完成されるまでの中世・近世初頭の技術発達の経緯は具体的にはほとんど解明されていないのが現状である。本研究はこの点に着目し、時代の特定できる遺跡から出土する中・近世の金属製考古資料を対象に材質と製作技法の変遷を探ることを目的としている。昨年度に引き続き、小柄などの刀装具やキセルの吸い口などの日常道具の分析をおこないデータの集積に努めている。また、1543年に日本に伝えられたといわれる鉄砲が短期間に定着し、国産化されていく過程を材料の側面から検証していくことも試みた。また、江戸時代に大きな影響を与えた南蛮文化にも注目し、メダイや十字架など、南蛮資料における金工品の調査もおこないつつある。これらの資料は、製作年代が限られることから、時代的な特徴と文化の特異性を探るには好適であると考えられる。さらに、この頃の技術革新に大きな寄与をもたらした鉱山から出土する金属製遺物も分析対象としている。このように、今年度は、戦国期から江戸初期にわたってわが国に導入された新しい技術革新に伴う金属製資料を中心とした調査をおこなった。今後、これらの調査を総合していくことによりわが国の金属材料技術史を体系化することをめざしたい。
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