ラマン分光法により1273K、純酸素中において溶融純AlおよびAl-Mg合金上に形成される酸化皮膜形成過程のその場観察を行うと共に、酸化に伴う質量変化を測定することにより以下の結果を得た。 1.溶融Al合金の酸化挙動は、酸化初期、酸化潜伏期および酸化進行期の三段階よりなっていることがわかった。しかしながら、溶融純Alや溶融Al-4mass%Mg、溶融Al-4mass%Mg-1mass%Si、溶融Al-4mass%Mg-4mass%Siでは酸化潜伏期が観察されなかった。 2.酸化初期にはMg蒸気の関与する酸化反応が起こり、MgOやスピネル相(MgO・Al^2O^3)が形成された。酸化潜伏期にはスピネル相を通してのAl融体の浸透が起こり、この浸透の完了が酸化進行期を出現させる。酸化進行期においては主にα-Al^2O^3が形成され、大きな酸化速度が観察される。 3.酸化進行期を迎える溶融Al-1mass%Mgおよび酸化進行期が観察されない溶融Al-4mass%Mgについて、ラマン分光法により酸化皮膜形成過程のその場観察を行った。溶融Al-1mass%Mg合金では、昇温過程よりスピネル相(MgO・Al^2O^3)が同定され、1273K付近よりα-Al^2O^3も同時に観察された。1273Kにおける保持の間、周期的にスピネル相とα-Al^2O^3のラマン線が消えるという現象が確認された。この原因としては、形成される酸化皮膜(スピネル相およびα-Al^2O^3)の割れに伴い、Al融体が酸化皮膜表面に存在したためと考えられる。酸化皮膜の割れは、高温顕微鏡による酸化過程のその場観察でも認められた。また、EPMAを用いた酸化皮膜断面の組成分析でも下地金属に平行にスピネル相が検出されたことからも示唆される。一方、溶融Al-4mass%Mg合金では、1273Kよりスピネル相の形成が観察された。以降、5時間までラマンスペクトルに大きな変化はなかった。これは、スピネル相中を通してのAl融体の浸透が完了していないことを意味する。
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