Fe-C-Cr系において現われるM_7C_3型クロム炭化物は融液から単体として直接得られる特異な金属間化合物であり、低融点、高硬度に加えて鉄基板との優れた密着性が期待できる。本研究では、まず溶製法によるクロム炭化物バルク材の組織と性質について調べ、低クロム濃度試料ではM_7C_3型クロム炭化物の他にレデブライト(M_3+Cマルテンサイト)が混合した組織となるが、50%Crおよび60%Cr試料ではほぼM_7C_3型クロム炭化物単体の組織が得られることを明らかにした。これを基に、鉄基合金基板へのハードフェーシング材としての応用ならびに原料としての鋳鉄切屑の再利用について検討した。それより、炭化物層の硬さならびに耐摩耗性はクロム濃度の増加とともに増大することがわかった。レーザ処理した60%Crハードフェーシング層の組織はほぼM_7C_3型クロム炭化物単体となり、最も優れた耐摩耗性を有することがわかった。また炭化物試料の熱膨張係数は鋼や鋳鉄のそれに近い値を示すことから、炭化物と鉄基板との間には強固な接合が得られた。原料にねずみ鋳鉄切屑と球状黒鉛鋳鉄切屑を使った場合では1回のレーザ溶解により、高硬度で耐摩耗性に優れたハードフェーシング層が形成できる。レーザハードフェーシング試料においては炭化物層に界面に垂直な縦割れが生じたが、その防止策として、複合拡散処理による基材表面近傍の傾斜機能化とその応力緩和効果について調べ、傾斜機能化が有効であることを示した。
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