結晶の成長速度が微量添加物により著しく抑制されることを利用して、結晶の形状を制御する試みがある。この形状制御を合理的に行うためには、添加物存在下の結晶成長の速度論を明らかにしなくてはならない。本研究は、添加物存在下の結晶成長速度におけるその非定常性に着目し、理論的および実験的検討を行った。添加物としてクロム(III)を用い、硫酸カリウム結晶の成長を実験的に検討した。硫酸カリウム結晶の成長速度はクロム存在下において著しく抑制され、4ppmの添加で成長は完全に停止した。また、2ppmのクロム添加濃度において明らかな非定常性を示した、すなわち、成長速度は徐々に低下し約1時間後に完全に停止した。また、この現象を説明する理論を提案し、実験結果を合理的に説明した。すなわち、結晶成長抑制は、ステップ線上の活性点に吸着した添加物によりステップの前進が阻止されるために起こること、非定常性は添加物の吸着が過飽和条件下ではゆっくり進行するために現れると説明した。本モデルの特徴は、添加物がステップ上に1次元的に吸着されるとしたことおよびラングミュア型の速度式で吸着過程を表現したことである。本モデルにおいては、添加物の有効性は不純物(添加物)有効係数αによって表現されるが、これにより添加物効果の過飽和度依存性も表すことができる。また、クロム(III)の添加物効果は、溶液のpHに依存しpHが7以上では現れず、約6以下の低pHで現れた。このpH依存性を、結晶成長抑制に対して活性なクロム(III)アコ錯体の加水分解生成物の存在分布分布の変化により説明できる。
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