膜結合酵素が活性発現するためには、脂質反応場が必要であり、この酵素は、脂質必要酵素とも呼ばれる。本研究では、このような酵素の一つとして、フルクトースデヒドロゲナーゼ(FDH)を選択した。固定化酵素担体として、大型で、単分散型の球状脂質ベシクルを用い、固定化FDHとしての、繰り返し利用を試みた。また、その固定化酵素反応特性について、動力学的あるいは熱力学的検討も行った。 固定化担体に用いた単分散型のベシクルは、粒径が5〜50μmと大きく限外濾過により、繰り返し回収することに成功した。また、ベシクル一個あたりの活性劣化は、5回の繰り返し利用において、前回の約8パーセント程度内に収まり、このような固定化酵素が十分実用化できることが判明した。 つぎに、固定化担体として、凝集型のベシクルを用いて検討した。このベシクルは粒径が約20〜50μmで、ベシクル表面に空隙が存在し、基質の拡散抵抗が存在するが、粒径が非常に大きく、工業的に実用的な固定化担体として期待できる。このようなベシクルを用いた固定化FDH系の酵素反応についての反応速度式を、化学工学的立場から理論的に検討した。その結果、ベシクルと基質の間の静電効果、および、ベシクル表面の空隙内への基質の拡散を考慮した速度式を用いて、固定化FDHの反応をよくシミュレートすることができた。 さらに、上記のFDH固定化ベシクル系および、FDHの均相水溶液系において、それぞれの熱力学的諸量、ΔG、ΔH、ΔSを求め、FDHと、基質フルクトースの結合および、その反応速度について、熱力学的検討を行った。その結果、FDHが基質と結合する際、FDHはfoidingな状態にコンフォメーション変化し、活性発現することが明らかになった。このことは、CDスペクトルの測定からも実証することができた。また、その反応速度は、酵素と基質の疎水的結合に支配されていることも指摘した。
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