従来のキラルな有機金属錯体は金属の配位子場と配位子の形状という要素からその構造と機能が決定されていたが、本研究の目的であるキラル性を有した無機固体触媒の合成を行う上で触媒活性部位となる分子構造のみならず固体結晶の高次構造をも制御する必要がある。本研究では自己集合性超分子錯体形成の概念を展開し、ヘキサメタリン酸化合物の持つ多様な形状と複雑な特性を利用した金属イオンとポリピリジル系配位子からなる化合物群を今回合成した。 その一例として[Cu(bpy)_2][Cu(bpy)][cu(bpy)(py)]P_6O_<18>.10H_2Oでは、一個のヘキサメタリン酸環にリン酸素への配位環境が異なる3種の銅イオンが存在し、それ自身でキラル構造を形成した。この結晶ではpyの配位能がbpyの3分の1程度と低いにもかかわらずbpyとpyの2種類の配位子が共存していた。また、これら配位子だけでなく金属イオンの配位子場も高次分子構築に重要な寄与をしていることから、この化合物の構造形成は単純な錯生成メカニズムにより成り立っているのではなく、ヘキサメタリン酸アニオンが構造の自由度を利用してその形状を大きく歪ませ、周囲の環境に適応しているためであることが分かった。さらにポリピリジル系配位子を含む化合物すべてに共通することとして、第二の高次構造ともいえる結晶水の水素結合ネットワークと分子同士の重なり合いにより生ずる配位子間のπ電子-π電子相互作用が存在し、これにより三次元チャネル構造が形成されることが分かった。これにより結晶水量のコントロールによる配位子の置換反応のオン・オフスイッチング化現象が起こることも見いだされた。金属周辺の局所構造のみならず固体全体のいたるまで高度に組織化された新しい自己集合性超分子錯体といえよう。
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