環境に応じて機能を発現するインテリジェント材料の開発が望まれてきている。本研究ではでは、アロステリック酵素の活性制御機構を模擬して、特定分子に応答して活性がON-OFF制御される酵素分子リアクターの設計を目的とする。このため結合タンパク質あるいは抗体を調節サブユニットモデルとして、そのリガンドアナログを化学修飾した酵素分子を触媒サブユニットモデルとして、両者のアフィニティ結合によりリガンド分子に応答して活性を発現する酵素分子リアクターシステムを構築しようと考えた。このシステムでは、リガンド物質を希釈・除去した際には再び結合タンパクあるいは抗体とアナログ修飾酵素とのアフィニティ結合体が再形成され、酵素活性が再び抑制され、繰り返し応答が可能になると期待される。 本年度はまず結合タンパク質を調節部位に用いる分子応答型酵素分子リアクターの設計、作製を試みた。具体的には、ビオチン(ビタミンH)に対する結合タンパク質であるアビジンを調節部位と見なし、ビオチンアナログであるHABA(ヒドロキシベンゼンアゾ安息香酸)でβ-ガラクトシダーゼを化学修飾して触媒部位とした。アビジン共存下と非共存下でHABA酸修飾酵素の活性を測定比較した結果、アビジンがHABAを認識して酵素に結合するため、酵素活性サイトがブロックされ、活性が60%程度まで抑制されることが示された。次いでアビジン共存下でさらに調節分子としてのビオチンを添加すると、ビオチンの方がHABAよりもアビジンに対するアフィニティーが強いため修飾酵素に結合していたアビジンが解離し、酵素活性が100%近くに回復することが示された。このバイオアフィニティーに基づく酵素とアビジンの結合の形成、解離は、酵素活性測定だけでなく水晶振動子マイクロバランスを用いて結合の形成、解離時の微小重量変化を測定することによっても明らかにできた。
|