ラン藻Synechococcus sp.PCC7942をモデル微生物として、大気中の二酸化炭素からエチレンを生成する系を構築するために、自律複製するプラスミド上に細菌(Pseudomonas syringae)由来のエチレン生成酵素(EFE)遺伝子を連結した組み換ラン藻を作成した。まず、プロモーター活性を3つのプロモーター(P.syringaeのエチレン生成酵素遺伝子のもの、大腸菌のlacプロモーター、光合成反応中心のタンパク質の1つであるD1のプロモーター)を用いて、それらのエチレン生成を比較した。その結果、最もエチレン生成活性が高かったプロモーターはpsbAIであったが、その安定性は逆に大変悪かった。そこで、psbAIプロモーターを付けたEFE遺伝子をラン藻の染色体の中性部位に組み込んだ組み換えラン藻(pIEK2-2)を構築した。このpIEK2-2株は大変安定で、かつエチレン生成活性も強力であった。そこで、pIEK2-2を用いてエチレン生成の反応工学的研究を実施した。本菌の比増殖速度(μ)とエチレン生成比速度(ρ)は、それぞれ10kluxと1kluxで飽和し、親株の比増殖束度に比べて、約10%減少していた。一方、pIEK2-2のエチレン生成比速度は10klux以上の光強度で阻害を受けた。この原因は、プロモーターに使用したpsbAIの性質を反映しているものと考えられる。また、この菌によるエチレンへの炭素回収率は全固定炭素の約8%であった。このように組み換えラン藻を用いて、安定で、かつ高いエチレンの生産に成功したので、今後は初期の目的である二酸化炭素のリサイクル系をpIEK2-2に付与し、さらに、この組み換えラン藻に代謝工学(メタボリック エンジニアリング)的手法を導入し、組み換えラン藻によるエチレン生産の最適化を来年度は目指したい。
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