一昨年から行っている、スタティックSIMS(S-SIMS)における表面微量化学種の定量的検出法の確立に向けた研究課題のまとめを行った。すなわち、飛行時間型質量分析器を備えたTOF-SIMSを用いて得られる二次イオン強度の厳密な計測と二次イオン生成機構に関する検討を行っているが、素性の明確な試料表面を与える、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリマー参照試料およびLB膜(ラングミュアーブロジェット膜)やアルカンチオール系自己凝集型単分子膜(SAM)等を用いて得られた結果の議論と論文へのとりまとめを行った。すでに、昨年までの研究において、スタティック二次イオン質量分析法において、 次イオンの照射条件や照射総量を変化させると、得られる二次イオン強度が大きく変化することを系統的、かつ定量的に評価し、二次イオン強度に与える、試料の表面組成、化学状態、測定雰囲気等の諸因子の影響を解析した。その結果、すべての有機系分子試料において、照射一次イオンの総量が10^<13>ions/cm^2を超えると、表面化学構造が大きく変化し、定量的な評価に問題が生じてくることを確認した。さらに、得られる二次イオン種の違いにより、その強度変化に大きな差が生じることを示し、二次イオン生成機構との相関があることを明らかにした。また、得られる二次イオン強度は試料の化学的雰囲気に大きく依存し、特にLB膜試料においては、形成される基板の化学的特性に大きく支配されることを明確に示すことができた。これらの知見をもとに、イオンドーズ量が少ない領域での定量的な評価法の確立に向けて二次イオン生成機構と化学結合性との関連性を検討したが、得られる二次イオン強度は半経験的な分子軌道法計算による結合次数との相関が非常に強いことを明らかにした。以上のような諸点を総合的に検討しつつ、TOF-SIMS法による定量性向上を視野に入れた本研究の学術雑誌論文へのまとめを行った。
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