本研究課題においては、平成8年度から10年度の3年間にわたり、飛行時間型スタティックSIMS(S-SIMS)における表面微量化学種の定量的検出法の確立に向けた研究を遂行した。具体的研究方法としては、飛行時間型質量分析器を備えたTOF-SIMS法を用いて得られる二次イオン強度の厳密な計測と二次イオン生成機構に関する検討を行った。用いた試料は、素性の明確な試料表面を与える、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリマー参照試料およびLB膜(ラングミュアーブロジェット膜)やアルカンチオール系自己凝集型単分子膜(SAM)等である。表面状態をX線光電子分光法(XPS)を用いて評価した上で、一次イオンの照射条件や照射総量を変化させて、得られる二次イオン強度を系統的に評価し、二次イオン強度に与える、試料組成、化学状態、測定雰囲気等の諸因子の影響を解析した。以上のような検討結果より、すべての有機系分子試料において、照射一次イオンの総量が10^<13>ions/cm^2を超えると、表面化学構造が大きく変化し、定量的な評価に問題が生じてくることが確認された。また、得られる二次イオン強度は試料の化学的雰囲気に大きく依存し、特にLB膜試料においては、形成される基板の化学的特性に大きく支配されることを明確に示すことができた。さらに、イオンドーズ量が少ない領域での定量的な評価法の確立に向けて二次イオン生成機構と化学結合性との関連性を検討したが、得られる二次イオン強度は半経験的な分子軌道法計算による結合次数との相関が非常に強いことを示し、化学構造と二次イオン生成機構との関連を明らかにした。
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