研究概要 |
本研究は、スピンプローブ法を中心とする電子スピン共鳴(ESR)法の優れた特徴を利用するとともに、近年進歩の著しい分子動力学法によるコンピューターシミュレーションをESRスペクトルの線形解析に利用することにより、有機薄膜中の分子の空間規則性や分子運動に関する詳しい知見を得るための新しい手法の発展と確立を目的とするものである。 今年度は最終年度として主に以下点についての研究を進めてきた。 1. プローブ分子を含む混合LB膜の相分離状態と分子運動の解明 これまでの研究から、メチレン鎖の異なる炭素位置に安定な常磁性基を持つ5-,10-,16-ドキシルステアリン酸とフルオロカーボン鎖を持つカルボン酸であるパーフルオロデカン酸(PFDA)または部分的にフッ素化されたエーテル結合を含むメチレン鎖を持つカルボン酸であるPFECAとの混合LB膜が、ドキシル基の位置によっては相分離しないことを見いだし、プローブ部位の位置が親水基に近いほど相分離を起こしにくくなることを明らかにした。昨年度は、スピンプローブの他に蛍光プローブ分子である、メチレン鎖の異なる位置に嵩高いアンスロイルオキシル基を持つ3-,6-,9-,12-アンスロイルオキシステアリン酸とPFDAまたはPFECAとの混合LB膜の相分離状態に関する研究を行いドキシルステアリン酸の場合と同様に、プローブ部位の位置が親水基に近いほど相分離を起こしにくくなるこが明らかになった。更に、このようなスピンプローブ分子および蛍光プローブ分子に共通な性質は、プローブ部位が親水基に近くなるほど、水面上の単分子膜内のプローブ分子の分子占有面積が大きくなるため、プローブ分子間の面内での凝集力が減少することが原因であることが示された。 2. 分子動力学法による有機薄膜中の分子運動のシミュレーションとESR線形解析法の確立。 これまで改良を進めてきた分子動力学法によるこのような系の計算プログラムは、ほぼ実際の研究に使えるレベルに達した。この結果、このプログラムを用いたシミュレーションにより、炭化水素鎖またはフルオロカーボン鎖を持つLB膜および混合LB膜の中に溶解したスピンプローブ分子のESRスペクトルから、これら有機薄膜中の分子運動について詳細な情報が得られるものと期待される。
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