本研究では、単分散性の良い貴金属コロイドを再現性良く作製できる「光アセトン法」におけるケテルラジカルの挙動を明らかにし、その反応機構を詳しく考察した。光アセトン法は、貴金属イオン、アセトンを含むミセル溶液に紫外光を照射する簡便な方法である。芳香族ケトン(ベンゾフェノンおよびアセトフェノン)、界面活性剤(SDS)を含む銀イオン水溶液に近紫外光を照射すると分散性の高い銀コロイドが生成し、それに伴い芳香族ケトンが減少する事を見出した。芳香族ケトンを用いた場合、銀イオンが吸収できない近紫外光でも反応が進む(増感光還元反応)ため、反応スキームが単純化される利点がある。芳香族ケトンの減少速度および銀イオンの還元速度と、銀イオンおよび芳香族ケトンの初期濃度との関係から、3重項状態の芳香族ケトンが、ミセルを形成しているSDSから水素を引き抜きケチルラジカルになった後、銀イオンを還元し、元の芳香族ケトンに戻るという反応スキームを提案した。一部のケチルラジカルは、水素を引き抜かれたSDSと再結合すると推定された。反応機構を提案した反応スキームに沿って解釈する上で、銀コロイドのモル吸光係数の値がサイズ効果により変化することが示された。また、標準的な試料にレーザーフォトリシスを行うことにより、ベンゾフェノンのケチルラジカルが反応溶液中に生成することを確認し、種々の試料でのケチルラジカルの寿命比較も試みた。さらに、本研究で明らかになった光アセトン法の特徴を利用し、従来の合金コロイドと構造および光物性の異なった、貴金属複合コロイドを作製することに成功した。
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