研究概要 |
隣接した複数の金属原子を含む多核錯体は、単核錯体とは異なった特異な化学変換を行える可能性を持っているが、実際に多核錯体を合理的に分子設計し、その特徴を活かした有機合成を実現した例は必ずしも多くない。本研究では、最近見出した複核ルテニウム錯体を触媒とするフェロセニルアセチレンの3量化反応ではアセチレンがトランスの立体化学でRu-C結合に挿入していると考えられる結果を得ていることから、ルテニウムをはじめとする複核ヒドリド錯体とアセチレン類の反応を詳しく検討した。 まずルテニウムヒドリド錯体[Cp^*RuH(SPr^i)_2RuCp^*][OTf]とアセチレンジカルボン酸ジメチルの反応を検討したところ、Ru-H結合へのC≡C結合のトランス型挿入反応により反応するカチオン性ビニル錯体が収率64%で得られることを見出した。X線構造解析によれば、この錯体においてアセチレンジカルボン酸ジメチルに由来する配位子部分は、ビニル炭素-ルテニウムのσ結合の他にエステルのカルボニル酸素-ルテニウムの配位結合を持ち、架橋構造を取っている。本系でもアセチレンのRu-H結合への挿入反応がトランスの立体化学で進行したことから、トランス型の挿入反応は複核ルテニウム反応場の特徴の1つといえるものと考えている。一方、エステル基を持たない1-ヘキシン、4-メチル-1-ペンチンでは2核ルテニウム錯体上でアセチレンが2量化することによりカチオン性ブテニニル錯体が、また3-フェニル-1-プロピルでは類似のブテニニル錯体の生成後さらに環化が進行してインダン骨格を有する錯体が生成した。これとは対照的に、ロジウム、イリジウムのヒドリド錯体[Cp^*MH(SPr^i)_2MCp^*][OTf](M=Ir,Rh)はアセチレン類に対しほとんど反応性を示さなかった。
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