生体分子において重要な構造モチーフであるラセン不斉をより基本的な不斉である点不斉から誘起するモデルとして、ビリベルディン亜鉛錯体のラセン不斉を光学活性なアミノ酸との相互作用によって誘起する系を検討した。種々のアミノ酸メチルエステルとの錯形成を塩化メチレン溶媒中で調べ、円偏光二色性スペクトルと、低温におけるプロトンの核磁気共鳴スペクトルから、ラセン不斉の誘起の程度を見積もることができた。円偏光二色性スペクトルからL-アミノ酸エステルは、一貫してビリベルディンに左まきのM-のラセンを誘起することがわかり、アミノ酸エステルの不斉炭素の情報が分子間相互作用を介してビリベルディンのラセン不斉に伝わることが分かった。一方、光学活性なアミンもラセンを誘起するが、そのラセンの向きは一定せず、また、ラセン不斉の効率も低い。このことは、不斉の誘起においてアミノ酸エステルのエステル基の重要性を示唆している。また、芳香族アミノ酸は脂肪族のアミノ酸に比べて良くラセン不斉を誘起した。これらの結果は水素結合などの局所的な相互作用よりも、ホストーゲスト間の双極子-双極子相互作用、芳香環-芳香環同志の相互作用などがラセン不斉により重要であることが明らかになった。さらに、ラセン不斉誘起にともなうコンフォーメーション変化の速度を核磁気共鳴スペクトルからみつもり、アミン、アミノ酸エステルがラセン反転の速度を加速することを見い出した。
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