京都府織物指導所が新規に開発した精練法で得られるセリシン水溶液と、これを凍結乾燥したセリシンとを入手し、これを原料として用いた。まず目的生成物の加水分解などに対する安定性を考慮し、エーテル結合で長鎖アルキル基を導入することを検討した。すなわち、セリシンの主な構成アミノ酸であるセリンのアミノ酸残基にある1級水酸基を長鎖アルキル化することを検討した。種々の条件(有機溶媒中、また相間移動型反応)を用いて行った。しかし、いずれの場合も回収したセリシンの各種スペクトルに長鎖アルキル基を認めることができず、このσアルキル化は出来ないことが判った。 そこで次に、脂肪酸誘導体を用いて長鎖アルキル基を導入することを検討した。0.1molの炭酸ナトリウム水溶液中に、脂肪酸クロリドのテトラハイドロフラン(THF)溶液をゆっくりと滴下し、室温で反応した。溶媒を凍結乾燥等で留去した後、回収したセリシンには各種スペクトルで長鎖アルキル基を確認した。これより、セリシンに一部含まれるリジンのアミノ基、もしくはセリシンのN-末端がアミド化されることが判った。この反応を超音波照射下で反応を行うと、このアミド化セリシンに含まれるアルキル鎖の量が多くなった。(まだ、セリシンに含まれるアミノ基の内、何%がアミド化されたかなど、このアミド化反応の効率が判明しておらず、次年度の課題として残った。)また、このアミド化されたセリシンは塩基性条件下で十分に水溶性が高く、また界面活性を示した。この様にこのアミド化セリシンが高分子界面活性剤として使用できることが判った。しかし、酸性条件下では水溶性が低下したため、無水硫酸やプロパンスルトンなどと反応させることにより、セリシンに含まれるセリンの水酸基に硫酸エステル基やスルホン酸基を導入することが、次年度の課題となった。
|