研究概要 |
昨年度の研究において,カチオン性のパラジウム錯体を触媒として用いることにより,活性化されていない単純なジエンとアルデヒドとのヘテロDiels-Alder反応が効率よく進行し,5,6-ジヒドロ-2H-ピラン類が生成することを見い出している.本年度の研究においては,キラルなジホスフィン配位子で修飾したカチオン性パラジウム錯体を用いて不斉ヘテロDiels-Alder反応に関して検討を行った.種々のキラルなジホスフィン配位子を有するカチオン性錯体([PdL^*(MeCN)_2](BF_4)_2,L=DIOP,CHIRAPHOS,BINAP,BPPFA)の存在下,ベンズアルデヒドと2,3-ジメチルブタジエンの環化反応は,進行するものの生成物はいずれもラセミ体であり,不斉誘導は見られなかった.一方,α-位にカルボニルを有するフェニルグリオキサールと2,3-ジメチルブタジエンの反応において,触媒として([Pd(S-BINAP)(PhCN)_2](BF_4)_2を用いることにより,95%ee以上の高い光学純度で付加体が得られることを見い出した.他のジエンとして,1,3-シクロヘキサジエン,1,2-ジメチレンシクロペンタンを用いても95%ee以上の高い光学純度で付加体が得られた.他のカルボニル化合物として,グリオキシル酸エステル類を用いた場合は副反応としてエン反応も起こるが,Diels-Alder生成物の光学純度はやはり95%ee以上と高かった.本反応においてはふたつのカルボニルを有する親ジエン体がパラジウムにキレート配位し,配座が固定されることにより高い不斉選択性が発現したものと考えられる.
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