水酸基を有した多置換のピロリジン、ピロリジンあるいはインドリジジン系アルカロイドは、alkaloidal sugar mimicsと呼ばれ、glycosidasesに対して強力な阻害活性を示す。これらの合成例は極めて少なく、その生理活性面の調査から高効率的な合成法が強く望まれている。本研究では有機化学的に極めて重要な方法論であるカイロン法に基き、これらtarget分子構築のための重要な中間体であるキラルな環状vic-ジオール分子素子の立体異性体を作り分けできる新方法論の開発と応用、さらに窒素原子によるS_N2反応を経由しない直接的な全合成を目指した。 カイロン法1 既に申請者が報告した手法によりC2軸不斉対称イミドを得、求核付加ついでEt_3SiHによる脱酸素反応を行うことにより、導入されたγ-置換基がβ-水酸基に対してtransであり連続不斉中心を有する環状vic-ジオール分子が得られた。本手法は保護基を選択することにより、完全な立体制御が可能である。 カイロン法2 D-アラビノフラノースのベンジルエーテル体が市販されており、これをアミンと縮合させてアミナールとし立体選択的な求核付加を行い、ついで酸化的に閉環することによって、導入されたγ-置換基がβ-水酸基に対してcisである環状vic-ジオール分子が得られた。この化合物は、カイロン法1で得られた化合物とはγ-位の立体のみが反対のジアステレオマ-であり、キラルプール中の素材を選択することにより自在にγ-位の立体をコントロールすることが可能となった。 この手法を利用することにより、L-アラビノフラノース誘導体より抗菌、抗腫瘍活性を有したピロリジン系アルカロイドである(-)-Anisomycinの全合成を達成した。またこれらのラクタムのN上の保護基は、容易に電子吸引基によって置換され、新たにラクタムカルボニルへの求核付加反応が可能となった。さらにこれら求核付加生成物の新しい立体選択的還元反応によりtrans体からは5置換ピロリジン系アルカロイドであるCodonopsineの全合成が達成された。またcis体からは中間体の極めて立体選択性の高い脱酸素反応に成功し、生理活性アルカロイドであるpruessinの合成を実現した。 本法はこれまでの冗長な鎖状アミン類の不斉合成と窒素原子による困難なS_N2反応を経由しないため、生理活性アルカロイド類の新しい合成手法を切り開くものであり、さらなる大きな発展が期待される。
|