近年、デンドリマ-と呼ばれる球形の分子が注目されているが、その合成法はいずれも官能基の保護、脱保護、鎖の伸長を段階的に繰り返す煩雑なものであり、大量合成を考えると全く実用的ではない。そこで、本研究では連鎖重合のモノマーに開始剤そのものを組み込み、その重合を行うことによりデンドリマ-型高分子の合成を行うことを目的に実験を行った。このようなモノマーを用いると、反応の1段階ごとに開始剤(反応活性点)が倍増し、文字どおりネズミ算式に分岐した高分子が合成可能である。 ここでは重合反応として、穏和な条件下でリビング重合になるメタクリル酸エステルのグループトランスファー重合(GTP)を用いた。種々のモノマーを合成し検討した結果、メタクリル酸エステルとそのGTP開始剤(ケテンシリルアセタール)の双方を含む化合物、エチレングリコール2-メチル-1-トリエチルシロキシ-1-プロペニルエーテルメタクリレート(1)が目的どおり多分岐型ポリマーを与えることを見い出した。 1は市販のエチレングリコールジメタクリレートに遷移金属触媒存在下、1等量のトリエチルシランを反応させることにより合成することができた。1は減圧下では蒸留も可能なほど安定な化合物であるが、THF中フッ化物イオンなどケイ素に対する求核剤を助触媒として加えると容易に重合し、分子量1万程度(GPC、ポリスチレン換算)の多分岐型ポリマーを与えた。これは多分岐メタクリレート系ポリマーをワンポットで合成した最初の例である。 この分岐構造は各種NMRの詳細な検討により定量的に解析することができた。興味深いことに分岐の程度は助触媒の種類に依存した。これは、GTPにおける助触媒の役割を考察する上でも重要な知見である。
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