研究概要 |
人工光合成系で最も重要でかつ難しい触媒反応である水の酸化(酸素が発生する)を効率よく行うための触媒を研究した。金属錯体を触媒とし,Ce^<IV>塩を用いた化学的方法,または電気触媒化学的方法により行った。三核型のルテニウムアンミン錯体であるRu-red,[(NH_3)_5-O-RU(NH_3)_4-O-Ru(NH_3)_5]^<6+>,を高分子膜に分散して用いると,高活性かつ安定な触媒として作用することを見いだした。均一水溶液中では,酸素発生速度は錯体触媒濃度に対して最適条件があることを見いだした。動力学的な取扱いから,均一水溶液中では高酸化状態の錯体が衝突して2分子的な副反応が起こって失活しやすいのに対し,膜系では拡散衝突が抑えられて安定化することを明らかにした。固定化した錯体2分子間の最近接距離分布を考慮した解析式を作り,Ce^<IV>を用いた化学系では,2分子分解が起こる時の錯体間距離を1.23nmと見積もることができた。高分子錯体膜被覆電極を用いた電気触媒化学系では,錯体に対する電荷伝搬がホッピングで起こるので,このためには分散錯体間距離が近いことが必要である。錯体の活性が膜中濃度に対して最適条件があることを見いだし,電荷ホッピング距離と分解距離両方を導入した解析式を作り,これに基づいて実験結果にフィッティングを行い,電荷ホッピング距離1.28nm,分解距離1.21nmを得た。電荷ホッピング距離は生体系で通常みられる値であり,また分解距離は化学的な触媒系とほぼ近い値となり,取扱いの妥当性が裏付けられた。人工光合成の還元サイトとして用いる二酸化炭素の還元触媒についても研究を行い,コバルトフタロシアニン系で二酸化炭素を還元してCOを発生する高い選択的な触媒活性を見いだし,また反応機構を議論した。
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