研究概要 |
パラジクロロベンゼンとクロミウム-ヘキサカルボニル錯体を出発物質としてクロム-アレーン錯体を調製した。フェノール類,チオール類による芳香族求核置換反応を行い、生成物中の組成比を高速液体クロマトグラフィーにより算出した。 従来の報告ではカラムクロマトグラフィーにより分離してから再結晶により単離してから再結晶により単離していたが、錯体の溶液中での安定性を考慮してカラム分離精製物を昇華して目的物を単離した。構造はIR、NMRスペクトルにより確認し、融点(80-81℃)は文献値と一致した。錯体はヘキサン、クロロホルムなどの無極性溶媒からDMF、DMSOなどの極性溶媒などに対して優れた溶解性を示した。 この錯体の溶液中での安定性を325nm付近に見られる吸収スペクトルの変化により評価した。溶液調整後一時間ではDMF、DMSOなどの極性溶媒中では安定だが、無極性溶媒中では吸収強度が7割程度まで減少した。溶存酸素、水の影響を調べたところ、乾燥窒素中との差は観察されなかった。溶液中での配位子の交換、脱離などが主な原因と考えられる。 DMSO中でフェノール、チオフェノールによる求核置換反応を行い、一置換体と二置換体の生成比を高速液体クロマトグラフィーにより算出した。チオフェノールを用いたとき二置換体の生成比が大きく増加した。チオエーテル結合はパラ位にある置換基に対する影響が少ないため、二置換体が多く生成したと考えられる。 ヨウ素酸化による生成物の脱クロム-カルボニル化を行ったところ、定量的に生成物を得ることができた。錯体の安定性があまり良くないことが判明したため、現在までのところ重合反応に関する検討は行っていない。錯体の解離反応を上回る迅速な成長反応による重合系の構築が必要とされる。
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