研究概要 |
多くのセルロース誘導体は、分子鎖の判剛直性とキラリティーに由来してコレステリック液晶形成能を有する。コレステリック液晶はしばしば独特の呈色現象を示すが、これは、入射光の液晶媒体中での波長がラセン周期(ピッチ,P)に等しいとき、その光が選択的に反射されるためである。本研究では、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)/水系のコレステリック液晶を主対象として、無機塩が溶媒中に共存する際の相構造に及ぼす効果を調べると共に、電場印加によって選択光反射に基づく呈色現象を外部制御する方法について検討した。主要な成果をまとめると以下のようになる。 1.コレステリックピッチは共存塩の種類と濃度に依存して増加又は減少する傾向が認められた。この結果は、塩を構成するカチオンとアニオンのそれぞれが示すカオトロピック効果の加成則を仮定して定性的に説明できる。塩の共存はHPC水溶液のLCST相分離挙動をも変化させるが、その際の白濁温度(曇点)の高低も添加塩のもつカオトロピック効果の序列と正負・大小関係において一致することが判明した。 2.テフロン板と白金電極をスペーサーにして透明ガラス板間に試料を挟み込む電場印加セルを試作した。このセル中に封入したHPC/塩水系コレステリック液晶に電圧を印加し、呈色状態や透明度が経時変化するのを観測することができた。比較的小さい電界の強さ(約3V/cm)によって、負極側に向かって短波長色への呈色移動又は透明度の低下が起こることが判った。今後、調光・遮光機能材料としての新たな応用展開が期待される。
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