研究概要 |
高分子の結晶化過程の過冷却度依存性を明らかにするためには、平衡融点の決定が不可欠である。ポリエチレンでは、これまでHoffmanらにより決定された平衡融点^<1)>と、Wunderlichによる融点^<2)>とがあり、どちらが正しい平衡融点を与えるかについては、決着が付けられていなかった。本研究では、高圧結晶化によって生成したポリエチレンの伸びきり鎖単結晶を六方晶から斜方晶へ固相転移させ、これの融点を調べるというWunderlichの方法により、ポリエチレンの平衡融点の分子量依存性を決定した。ポリエチレンは生成する結晶のモルホロジーの違いにより、type Aとtype Bと呼ばれる2種類の結晶モルホロジーが知られている。結晶化速度の過冷却度依存性を決定することによりポリエチレンのtype A,type B両結晶の過冷却度依存性について議論する。 実験に用いた試料はNISTの高分別試料であり、数平均分子量11,400,28,900と100,500の3種類である。これらをそれぞれ、11k,29k,100kと呼ぶことにする。平衡融点の決定に用いた伸びきり鎖単結晶は、0.5GPaで生成した伸びきり鎖単結晶を固相転移させたものである。得られた融点Tm(ECSC)より、これらの単結晶のラメラ厚が1μmであることを考慮に入れ、Tm^0=Tm(ECSC)+0.3Kにより各試料の平衡融点を決定した。常圧結晶化の観察は、偏光顕微鏡を用いて行い、得られたビデオ画像の解析より、沿面成長速度Vを決定した。 得られた平衡融点の分子量依存性は、Wunderlichのデータに近く、Hoffmanらが決定した分子量依存性よりもかなり低いものであった。常圧結晶化過程において観察される結晶のモルホロジーは、11K,29KについてはtypeA結晶の生成する温度領域とtypeB結晶の生成する温度領域とではっきり区別できるほどに異なっていた。一方、100Kについては結晶化のごく初期から多結晶化が起こっているようで、11K,29K程にモルホロジーの変化を確認することは出来なかった。typeA,typeB両結晶の生成するどちらの温度領域においても沿面成長速度VはV=Aexp(-B/TcΔT)の式でよく近似された。ここで、Tc,ΔT=lTm^0-Tclはそれぞれ結晶化温度、過冷却度を表す。typeA,typeB両領域どちらにおいてもAは分子量の増大につれ減少したが,Hoffmannによって提唱されている分子量に対する逆比例関係は得られなかった。Bの値については、いわゆるregime理論によれば、2つの領域でのBの値がtypeA領域とtypeB領域で2倍の差があるとされているがそのような結果は得られなかった。 1)J.D.Hoffman, L.J.Frolen, G.S.Ross and J.I.Lauritzen,J.Res.NBS.,79A,671(1975). 2)B.Wunderlich, Macromolecular Physics, Academic Press(1980).
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