中尊寺に安置されている藤原三代の遺体に使用されている絹のアミノ酸組成が当時の気温を反映していると仮定して解析を進めて来た。その仮定の正しさを検証するため、異なる温度で現在の蚕(鐘月1号×春嶺1号)を異なる温度で飼育し、成育した蚕から摘出した絹糸腺と絞りだした体液の^<13>CNMRを測定し、アミノ酸組成を求めた。その結果、両者とも温度依存性が見られた。それは25℃に極大(或いは極小)をもち、放物線で近似できるような依存性である。逆にアミノ酸組成から過去の気温を推定しようとする場合、放物線の高温側の枝を用いると、非常識なまでの高温になるので、ほぼ一意的に決定することが出来る。勿論、恒温条件で飼育したものと自然条件で飼育したものを単純に比較はできないし、品種も大きく異なる。従って、温度の絶対値とまでは行かず、傾向が求まったということになる。また、絹糸腺と体液のアミノ酸組成の間には逆相関がみられ、絹糸腺にある特定のアミノ酸が取り込まれると、それだけ体液中のアミノ酸が消費されている。中尊寺に安置されている遺体の内、どちらが二代基衡で、他が三代秀衡なのかということについて二説ある。この研究の結果と年輪考古学のデータの比較による限りでは寺伝を支持することになる。
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