研究概要 |
繊維強化複合材料積層板では,一般に板厚方向には繊維が配向されていないため,層間の剥離が生じ易い.耐熱材料を兼ねる積層板構造の場合,この層間剥離の存在は積層板内の板厚方向の熱伝導を妨げ,局所的な熱集中による予想外の熱変形や強度低下を招く恐れがある.本研究はこの点を念頭に置き,層間隔離を有する積層板の熱変形挙動を調べることを目的とした. 前年度は,積層板を等方性の材料と仮定して解析を行ったが,今年度はこれを異方性材料に拡張することでより現実的な解析に近づけた.解析では,圧縮座屈時の座屈波形を用いて,圧縮荷重と熱荷重が同時に加わった際の座屈後の変形の解析解を求め,さらにこの結果を用いて剥離進展時のエネルギー解放率を計算した.その結果,熱荷重が加わった状態での圧縮座屈後の変形は,熱荷重無しの場合に比べて,極めて大きな変形となり,耐熱構造では熱荷重を考慮することが重要であることがわかった.また,エネルギー解放率は,熱荷重と力学的荷重の組み合わせ方によって,複雑な傾向を示すことも明らかになった. また,解析による予測を確かめるため,実験にも取り組んだ.剥離を模擬したアルミ合金製の接着板を実験に供し,その熱変形挙動を計測することを試みた.実際の運用条件を考慮し,熱荷重とともに力学的荷重も同時に加える機構を作って組み合わせ作用下での挙動について実験した。この装置では点熱源を用いたため,一様な熱荷重を負加することが極めて困難で,再現性のあるデータは得られなかった.今後は,熱源を改良した装置によって信頼性の高いデータの取得を目指す予定である.
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