カオス振動子を用いて特定の周期外力による共振を抑制することが可能か否かを調べるのが本研究の主要目的であり、本年度は簡単な非線形振動子モデルに基づいて基本的な機構を調べた。 従来の動的吸振器では、補助的振動子を主振動子系に付加して共振振動数をずらすことによって共振を回避する。これに対し、本研究では共振を起こす主振動子系と周期外力との間に補助的振動子を挟み込んだ「挿入振動子モデル」を考え、共振抑制の機構を理論的に考察する。周期外力がカオスのような幅広いスペクトルをもつ振動に変換されたとき共振が抑制されるのではないかというアイディアがこのようなモデルを考察する出発点となっている。 具体的には、(1)周期外力を非線形振動子により変換し主振動子への入力とするモデル、および(2)質量・ばね・減衰器より構成される2自由度挿入非線形振動子モデルを取り上げ、それらを記述する方程式を種々の条件で数値的に解いて共振振幅や振動のスペクトルなどの性質を調べることによって以下の結論を得た。 (1)については、挿入非線形振動子による非線形飽和により主振動子の共振振幅が減少すること、周期外力が高調波や分数調波あるいはカオス振動に変換されることにより共振がさらに抑制されることを見出した。 (2)については、動的吸振器との差異を明らかにするとともに、挿入振動子の場合には共振周波数のずれが大きくなるので有効に共振を避け得ることを示した。また、挿入振動子の非線形性による共振振幅の減少、さらに、スペクトルの広がりによる付加的な共振振幅の抑制が(1)の場合と同様に起こることを見出した。 以上の考察に基づく、より現実的な力学モデルの解析と実現を次段階の研究として企図している。
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