研究概要 |
本研究は線形不安定過程をバイパスする,強い攪乱により生じる境界層遷移を対象としている.前年度に引き続き,遷移の進行が撹乱の強さに非常に敏感な低レイノルズ数の平板上境界層を対象として,壁面小孔から強いヘアピン渦撹乱を導入し,撹乱域のスパン方向成長を引き起こすヘアピン渦/縦渦の再生成機構を実験的に調べた.この流れでは,十分強いヘアピン渦撹乱を励起したとき,運動量厚さに基づくレイノルズ数R_θが130を越えると(線形論による臨界値は200)乱流楔が発達する.得られた結果は以下の通りである. 初めに励起したヘアピン渦の流下と共に,渦の脚部に相当する縦渦対の通過とともに低速ストリークが発達し,低速ストリーク上の速度分布の変曲点不安定および縦渦と壁との干渉(非定常剥離)によるヘアピン渦の生成が続くことにより乱流への遷移軌道にのる.また、局所的な乱流域(いわゆる乱流楔)のスパン方向の広がりに注目すると,縦渦の誘起場による周囲(層流境界層)の渦線の変形と境界層速度勾配による傾斜・伸長により周囲(横)にも新たに縦渦・低速ストリークが生まれていく.乱流楔のスパン方向成長(ラテラルコンタミネーション)は,この新たに生まれていく低速ストリーク上の変曲点不安定によるヘアピン渦への崩壊により進行するように見える.乱流の数値実験で観察されるようなストリークが流れ方向に対して傾きながら移流する様子も見られるが,発達した乱流を支配する組織構造とこの遷移過程で生まれていく渦構造との関連性については今後詳しく調べる必要がある.
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