地下き裂が熱水の流路を支配する、いわゆる断裂型地熱貯留層からの熱エネルギー抽出量を評価するためには、き裂群の分布状態を定量的に評価する必要がある。これまでの研究により地下き裂群は様々なフラクタル的な特徴を持つことが明らかとなってきた。本研究ではフラクタル幾何学を用いて地熱地帯の地下き裂分布の定量的な評価を行った。 まず、日本を含め世界各国の地熱地帯で集められたコアサンプルデータより、き裂の存在間隔の調査を行った。具体的には、コアサンプルと交差するき裂の深度に沿った存在確率を測定した。その結果、き裂は深度に沿って一様に分布しているのではなく、ある部分には集中して存在し、ある部分にはほとんど存在しないというような偏りがあることが明らかとなった。さらに、この分布は代表的なフラクタル分布であるカントール分布として評価できることがわかり、各フィールドのフラクタル次元を算出することができた。 これまで地下き裂群の数値モデルは、円盤状のき裂を空間的に一様分布になるように発生させるのが一般的だった。しかしながら、本研究により、このようなモデルに対して仮想的なボアホール(スキャンライン)を考えると、き裂との交点分布は観測データのようにはならないことが分かった。そこで、より現実的なき裂の空間分布を模擬するために地熱地帯の微小地震または水圧破砕時のAE等のリモートセンシングデータの解析を行った。その結果、これらの空間的な分布もフラクタル的でレビのダストと呼ばれる分布により模擬できることが分かった。この空間分布にもフラクタル性を考慮した数値モデルは、スキャンラインに対しても実測値と近い分布を示し、より現実的なモデルと考えられる。 このモデルの応用例のひとつとして、断裂型地熱貯留層からの熱抽出解析を行い、き裂の空間分布の偏りに対する熱抽出量の減少が定量的に評価できるようになった。
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