本研究報告書は、紫外線UltravioletB(UV-B)や微生物に対する防御物質としての働きを持つフラボノイド類の合成能を高めることにより、これらの有害環境に対する耐性作物の育種を目標とした研究結果をまとめたものである。 ダイズにおいては、フラボノイド遺伝子の一つとして知られるカルコン合成酵素(CHS)遺伝子が少なくとも7つに同定されている。本研究では、ダイズ発芽初期におけるCHS遺伝子ファミリーの発現調節を遺伝子毎に調べ、芽生えにおける紫外線等に対する環境応答について解析した。その結果、発芽種子胚においては光照射の有無に関わらず、CHS第7遺伝子が種子の浸漬から6時間でピークに達するという非常に早い発現誘導を示したが、その生理的役割については今後の研究課題である。また、CHS第1〜6遺伝子の紫外線UV-Bによる発現増大(紫外線応答能)が種子の浸漬から24時間以降になって急速に高まることが判明した。これは、自然界において芽生えが頭を出す以前に紫外線応答能が発達するという遺伝的プログラムを示唆するものであった。 一方、マメ科植物においては、フラボノイドの一種が根粒菌の共生を促す作用をもつが、このようなフラボノイド合成は窒素栄養制限下で強まる。そこで、窒素栄養制限下で発芽したダイズ芽生えの根組織におけるCHS遺伝子ファミリーの発現調節を調べた。その結果、硝酸態窒素によるCHS第7遺伝子の発現抑制、また、それがマメ科植物に特異的であること等が判明した。 フラボノイド合成の活性化因子としてはMYB相同性因子がよく知られている。本研究では紫外線UV-Bにより発現量の増大するダイズ遺伝子myb10及びmyb29の全長をクローン化しその構造解析を行った。今後、これらの遺伝子を利用したフラボノイド合成能の改変に着手する予定である。
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