遺伝子組換えをはじめとした種々の細胞工学的操作には、植物体再生能力の高い組織や細胞を選抜あるいは作出して行う必要がある。野生型のAgrobacterium rhizogenesによって形質転換して得られる毛状根は、通常の根よりも増殖率が高く、旺盛に分岐するために、たくさんの根端分裂組織を得ることができる。また通常の根と比べて、植物体再生能の高い場合が多い。本研究では、このような特性を持った毛状根を対象として、種々の細胞工学的な操作による育種の可能性について検討した。材料には植物体再生能の高いNierembergia repensの毛状根を用い、分裂組織を含む根端部に対してtissue electroporationによる遺伝子導入の可能性を検討した。その結果、分裂組織を含む根端部分に処理することにより、GUS遺伝子の一時的な発現を確認した。また、GUS遺伝子をもつAgrobacterium tumefaciensの数系統を用いて、形質転換の可能性も検討し、この方法でも一過的な発現を確認することができた。現在これら2つの方法を用い、抗生物質耐性遺伝子を導入した毛状根について、安定的な形質転換体の選抜を行っているところである。一方、毛状根の根端分裂組織における細胞分裂の同調化を試み、リン酸飢餓、ヒドロキシウレア、コルヒチンの3つの処理を併用することにより、分裂組織の20%の細胞を同調分裂させることができた。なお、処理した毛状根から再生した植物体の一部は4倍体であることが確認され、倍数体の作出手段としても有効であることを確認した。以上の結果から毛状根は遺伝子導入や倍数体作出を行う上で、有効な材料となりうることが示された。
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