本研究では、野生型のAgrobacterium rhizogenesによって形質転換して得られる毛状根を対象に、種々の細胞工学的な操作による育種の可能性について検討した。材料には植物体再生能の高いNierembergia repensの毛状根を用い、分裂組織を含む極端部に対しGUSおよびカナマイシン耐性遺伝子をもつAgrobacterium tumefaciensの数系統を用いて、形質転換の可能性を検討し、GUS遺伝子を発現しカナマイシン耐性を有する毛状根を選抜した。現在この毛状根から幼植物体が再生されており、成長を待って導入遺伝子の確認を行う予定である。一方、毛状根の根端分裂組織における細胞分裂の同調化に有効な、リン酸飢餓、ヒドロキシウレア、コルヒチンの3つの処理を併用することにより、分裂組織で最大30%の同調化が可能となった。この同調化処理した根端をプロトプラスト化して、染色体の単離を試みたが、単離途中における染色体の分解がひどく、かつ純化が困難であり、まだ十分な単離技術が確立できない状況にある。なお、コルヒチンの処理時間と濃度を検討することにより、効率よく4倍体植物が得られることが判明した。なお、軟X線処理による毛状根処理では、現在のところ葉緑体突然変異は確認されていない。以上の結果から毛状根は少なくとも遺伝子導入や倍数体作出を行う上で、有効な材料となりうることが示された。
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