研究概要 |
富山市で発見された雄性不稔と思われるスギの雄花を組織解剖学的に分析したところ,成熟分裂花粉四分子以降の小胞子形成過程に異常を生じ,結果的に完全雄性不稔になることを確認した。また,正常な稔性をもつ雄花と外部形態的には変らないが,樹形は劣り,小胞子形成過程の進行が約1カ月遅いことも判明した。 最近わが国で相次いで報告された部分雄性不稔スギが三倍体や三染色体に由来することから,この雄性不稔スギから人工交配で得られた241個体の根端体細胞分裂を観察したところ,1個体で二倍体細胞に加え,2細胞が四,1細胞が八倍体細胞で,この個体は混数体であったが他の240個体はすべて2n=22の二倍体で個々の染色体の構造的変異もなかった。このことから倍数性や異数性による雄性不稔でなく核あるいは細胞質・核遺伝子による雄性不稔と推定した。このことは先の成熟分裂異常の結果と一致する。また,人工交配種子が簡単にかつ多量に得られたことから,雌性配偶子形成過程は正常であると断定できた。交配個体の生育は良好である。 この雄性不稔性を迅速に分析するため挿し木によるクローン増殖を行ったがほとんど発根せず挿し木能力が極端に劣ることがわかった。正確な遺伝育種学的分析のため人工交配で得られた個体を増殖し,ジベレリン処理により開花誘導している。また,現在DNAやタンパク質を指標に分子的解析をし,岐阜県で新たに発見された不開花雄花スギの組織形態分析をしている。 偶然発見された1個体の雄性不稔スギのため,美女平から海抜1550mまでの地域の138樹の天然立山スギの花粉雄性を調査したが全部正常稔性で雄性不稔の遺伝子頻度が低いことを確認した。
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