研究概要 |
本研究は,チャにおける自家不和合性の遺伝子型が明らかな品種ならびに自家和合性突然変異体などを実験材料として,雌蘂ならびに雄蘂における自家不和合性遺伝子(S遺伝子)産物の同定とその分子生物学的解析を行ない,ツバキ科の自家不和合性の分子機構を解明することを目的としている.本年度は,雌蘂におけるS遺伝子産物の同定のために,抽出した花柱蛋白質の2次元電気泳動を行なった.その結果.供試したチャの4品種において分子量が18.5kDに相当する塩基性蛋白質に多型が認められた.この蛋白質のN末端アミノ酸配列を解析した結果,タバコのPR-1蛋白質(Pathogenesis-related protein)と高い相同性が認められた.さらに.チャ品種"やぶきた"では2種のPR-1様蛋白質が発現しており,これらのN末端アミノ酸配列は完全に一致しており,高度に保存されていることも明らかとなった.雌蘂の発育ステージにおけるこれらPR-1様蛋白質の発現を調べた結果,開花前3日以降の雌蘂で発現することが示された。これらの結果から,チャの雌蘂で発現するPR-1様蛋白質は成熟花柱において生理的な機能を担っているものと推察される.PR-1様蛋白質の全アミノ酸配列を明らかにしその生理的役割を明らかにするため,花柱からRNAを抽出し逆転写酵素によりcDNAを合成した後,cDNAライブラリーを構築した.また,PR-1様蛋白質のN末端アミノ酸配列にもとずいて,オリゴヌクレオチオドの合成を行なった.今後,この合成DNAをプローブにして花柱cDNAライブラリーのスクリーニングを行ない,得られた全鎖長の塩基配列の解析やアミノ酸配列の推定ならびその遺伝子発現の解明など分子生物学的解析を行なう予定である.
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