研究概要 |
チャの栽培品種は配偶体型自家不和合性を有し,その不和合性は単一遺伝子座の複対立遺伝子(S遺伝子)によって制御されている.本研究は,チャの雌蕊において特異的に発現している蛋白質を同定し,その蛋白質をコードする遺伝子の解析などを通して,チャが属するツバキ科の自家不和合性の分子生物学的機構を解明することを目的としている.数品種のチャの雌蕊から抽出した粗蛋白質を2次元電気泳動で分析し,品種間で等電点や分子量に関して多型を示す2種類の蛋白質スポット(AおよびB蛋白質)を検出した.A蛋白質スポット(pH9,ca.18kDa)については,電気泳動ゲルからPVDF膜に転写し,プロテインシーケンサーによってN末端アミノ酸配列を明らかにした.このアミノ酸配列をもとにdegenerated primerを合成し,このプライマーと雌蕊mRNAを用いて3´-RACEによるRT-PCRを行なった.このPCR断片をプローブとして,雌蕊cDNAライブラリーのスクリーニングを行ない全鎖長のcDNAクローンを得た.その塩基配列を解析した結果,タバコのPR-1遺伝子と約40%の相同性が認められ耐病性関連遺伝子であることが明らかになった.また,B蛋白質スポット(pH6,15kDa)についても上記の蛋白質と同様にN末端アミノ酸配列を調べたが,N末端がブロックされているためデータを得ることができなかった.そこでこの蛋白質をリシルエンドペプチダーゼで消化した後,4個のペプチド断片についてアミノ酸配列を明らかにした.これらのアミノ酸配列データをもとにホモロジー検索を行なったところ,種々の植物からクローニングされているGlycine-rich RNA-binding Proteinと高い相同性が認められた.この蛋白質については,全鎖長のcDNAクローンの解析や遺伝子発現パターンの分析などを行ない,その構造と機能を今後明らかにしたいと考えている.以上の研究結果から,チャの雌蕊でメジャーに発現している2種類の蛋白質が明らかになったが,自家不和合性との関連性については今後さらに検討する必要がある.
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