ハナショウブにおる花色変異(青色化)の原因を解明するために、まずマルビジン3RGac5G-ペチュニジン3RGac5G型品種における花弁(外花被)表皮細胞のpHを調べたが、細胞のpHと花色の間に特定の関係は見いだされなかった。これに対して、マルビジン3RGac5G-ペチュニジン3RGac5G型の品種では同じアントシアニン型に属するにもかかわらず、フラボン量と花弁のλmax(可視)は赤紫<紫<青紫の品種の順に高くなり、しかもフラボン量と花弁のλmaxとの間には有意な正の相関(r=0.887^<**>)が認められた。その結果は、品種のフラボン量が多くなるほど花弁のλmaxが長波長側へシフトすること、すなわち花色の青味の程度が強くなるというコピグメンテーションの存在を強く示唆した。 そこで、ハナショウブの主要アントシアニンであるマルビジン3RGac5G、ペチュニジン3RGac5Gおよびデルフィニジン3RGac5Gと主要フラボンであるイソビテキシンの各結晶を用いて、in vitroでのコピグメンテーションの実証を試みた。その結果、マルビジン3RGac5G、ペチュニジン3RGac5Gおよびデルフィニジン3RGac5Gのいずれの溶液もイソビテキシンの濃度を高めていくと、各溶液のλmaxは明らかに長波長側にシフトした。このことは、これらのアントシアニンがイソビテキシンとの間にコピグメント効果を有することを実証するものであった。また、マルビジン3RGac5G-ペチュニジン3RGac5G混合溶液の吸収スペクトルは、マルビジン3RGanc5G-ペチュニジン3RGac5G型の青紫品種『水天一色』、『碧海』および『夜光の珠』の新鮮花弁における吸収スペクトルとよく類似していた。以上のことから、これらの品種における花弁の青色化は主としてマルビジン3RGanc5Gおよびペチュニジン3RGac5Gとイソビテシンとのコピグメンテーションによるものと結論づけられた。
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