イネ品種金南風、農林20号、染分けおよびハヤユキを用いて、作期を早中晩の3期に分けてポット栽培し、その生育経過を調査し、出穂期よりファイトトロン内で冷温処理(日中20℃、夜間15℃)した。開花期にこれらの植物体の小穂を強勢花と弱勢花の穂上位置を区別しながら採取し、実体顕微鏡下で解剖し、染色処理した後、葯や花粉の形態を観察し、花粉の活性(FDA反応)および生存率などを調査した。耐冷性の比較的弱い品種金南風や農林20号では早期栽培の対照区においても花粉の退化や形態的な異常が観察された。冷温処理により澱粉型花粉の糖型花粉への変化の遅延や異常などが観察された。対照区の材料を用いて花粉発達過程を経日的に観察したところ、花粉成熟の経過に関する従来の認識や誤りや情報の不足に気付いた。そこで対照区および冷温処理区の採取した材料から高解像度光学顕微鏡観察のために準超薄切片法による試料調製を行った。試料より厚さ0.5μm以下の切片を作製し、スライドグラス上に載物し展着後、脱樹脂処理を施し塩基性フクシンやチオニンなどで染色し、オイキットで封入し、組織標本とした。この試料調整法により花粉の成熟過程の詳細な光学顕微鏡観察ができることが明らかとなった。引き続いてこの調整法による切片の蛍光顕微鏡観察のための染色法を検討した。しかし蛍光顕微鏡観察にはむしろ従来著者らが用いている水溶性メタアクリル樹脂(GMA)による包埋法のほうがむしろ良い結果が得られた。これは後者のほうが切片が厚く(1-2μm)、このために材料がより多く存在しているためと考えられた。走査電子顕微鏡観察には凍結活断法をこころみ、これが成熟期の花粉断面を生に近い状態で観察するために有効であることを見出した。イネの花粉観察のための従来の試料調製法には問題点のあるのことが指摘されており、著者もこれを完全に克服できる状態には至っていないが、上記のような諸方法を組み合わせて用いることにより、ア-テイファクトを除きながら成熟期の花粉観察を行うことができる目途をつけた。そして目下、花粉成熟過程の詳細な観察を行いつつある。
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