本研究の目的は、受精能力をもつ正常な花粉および冷温などにより障害を受けて受精能力を失なってしまう花粉の生成機構について、新しい光学顕微鏡および電子顕微鏡の手法を用いて解析し、花粉の受精能力保持に関する基礎的な知見を得ようとするものである。このためイネ花粉の発達過程についてこれまでの研究を踏まえながら、高解像光学顕微鏡およびクライオ走査電子顕微鏡による観察を深め、特に情報の少ない開花期の花粉における知見を集積する。一方穎花の冷温およびジベレリン処理里等による花粉の異常について詳細な観察を行い、これら性状および異常な花粉の生成過程を比較し検討しようとするものである。本年度には、前年度の進展状況を踏まえて、イネ花粉の発達および成熟の過程をエポキシ系およびアクリル系の樹脂による準超薄切片法で試料調製して光学顕微鏡観察するとともに、クライオ走査電子顕微鏡を用いた観察を行った。また冷温処理およびジベレリン処理した植物体の花粉や穎花の形態的様相を解剖学的な手法により解析した。これらの観察の結果から、澱粉花粉から糖型花粉への変化について従来の認識に誤りがあることが明らかとなった。この点をさらに多角的に検討する必要が出てきた。また今後、成熟花粉と異常花粉の差異を再評価することが必要となってきた。そこで花粉稔性の評価に加え、生きた状態の花粉のバイアビリテイなどの把握、さらにこれらの花粉に対する透過電子顕微鏡法や免疫組織化学法による詳細な検討を引き続き行っている。
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