1.本研究課題はこれまでの諸研究を踏まえながら、比較的新しく確立された光学顕微鏡、蛍光顕微鏡およびクライオ走査電子顕微鏡の方法を用いてイネの葯と花粉の発達の様相を探る一方、冷温による障害的な影響について解析しようとしたものである。2.バルクの材料の蛍光顕微鏡観察により、葯における葉緑体の赤色の自家蛍光およびフルオステイン染色による葯壁の青色の蛍光、花粉外殻の黄色の自家蛍光、FDA染色による花粉のエステラーゼ活性の蛍光発色の観察を、それぞれおこなった。花粉の充実度をヨードヨードカリ法による光学顕微鏡観察法で確かめた。葯の裂開の様子も観察した。3.柱頭上での花粉の受粉から発芽にいたる過程の変化を、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡およびクライオ走査顕微鏡で、それぞれ明確にした。4.花粉の発達および充実する過程を、準超薄切片法による光学顕微鏡、蛍光顕微鏡観察ならびに凍結割断法によるクライオ走査電子顕微鏡観察により把握した。5.穂ばらみ期後の冷温処理の影響として、葯の列開不良、花粉の未発達と成熟異常、柱頭への付着と花粉発芽数の減少傾向および種実発達初期における雌ずい内での幼胚の異常などを認めた。6.これまでの光学顕微鏡や実体顕微鏡による観察に蛍光顕微鏡やクライオ走査電子顕微鏡による観察を併用することにより、葯や花粉の生育や退化の様子、ならびにこれらの変化して行く過程をより的確に捉えることができると判断されたので、今後イネ作物体への冷温処理の期間、時期および処理条件などを変えてさらに検討することを課題として提起した。
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