研究概要 |
ニホンナシの自家不和合性は、一遺伝子座S複対立遺伝子系で説明されており、現在までにS_1〜S_7の7個の複対立遺伝子(S遺伝子)が確認されている。しかし,S遺伝子型が決定されているニホンナシ品種はごく一部であり、現在栽培されている主要品種でも不明なものが多い。このような背景から本研究では、S遺伝子またはその産物であるタンパク質(Sタンパク質)を利用して、ニホンナシの不和合遺伝子型を同定する方法の確立を目的に、いくつかの観点から検討したものである。 S_1〜S_5遺伝子に対応する花柱タンパク質が等電点電気泳動法により同定され、これを用いて新品種を含む数品種のS遺伝子型を確立した。これらの遺伝子型は、圃場における受粉試験からも確認された。また、それぞれのタンパク質は糖鎖を持つことが明らかとなったため、泳動したタンパク質をCon-A染色することにより、遺伝子型の同定がより明確となることが示された。なお、各Sタンパク質のモノクローナル抗体を作成しようとしたが、1)それぞれのSタンパク質同士が互いに混入し合うこと、2)完全精製しようとすると回収率が極めて低下すること(10%>)から、抗体作成は行えなかった。 S_4遺伝子のPCR増幅に関し、上流プライマーとして、5' TTTACGCAGCAATATCAG 3'、また下流プライマーとして、5' G(C/T)GGGGGCA(A/G)T(T/C)TATGAA 3'配列の有効性が示され、これをニホンナシの若葉を用いて検討し、この一部からプローブを選定しようとした。S_4遺伝子を持つほとんどの品種ではS_4遺伝子と推定される825bpのDNAが増幅されたが、'新水''(S_4S_5)と'清玉'(S_3S_4)では増幅されなかったため、プローブの確定はできなかった。また、花柱のmRNAまたはrRNAを用いてRT-PCRによりcDNAを合成し、このcDNAからのS遺伝子のスクリーニングを試みた。RAPDマーカーを用いることにより数種のバンドが候補として挙げられたが、それらを同定してプローブを得るまでにはいたらなかった。
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