カキ果実の場合、果実中へ転流されてきたショ糖が酸性インベルターゼにより果糖とブドウ糖の還元糖へ分解されることが果実発育・糖蓄積のための重要な要因となっているが、この酸性インベルターゼは果実中のアポプラストにも存在することが指摘され、その活性はpHによって大きく左右されることが知られている。そこで、カキ果実中のアポプラストpHの経時的変化を調査し、果実肥大を制御する要因を検討した。 まず、カキ果実中のアポプラスト液を採取する方法を検討したが、カキ果実全体をプレッシャーチャンバー内で加圧(25気圧)することで、果梗よりアポプラスト液を採取することができた。ただ、採取開始直後の100μl前後には師管液が混入していたので、分析には100μl以降の採取液を使用する必要性が示された。 つぎに、‘富有'果実のアポプラスト液の糖組成・浸透圧・pHを経時的に分析したところ、アポプラスト液が果汁と比較して、かなり異なった様相を示すことが明らかとなった。すなわち、成熟期の果実の果汁ではその糖組成はショ糖がほとんどで果糖およびブドウ糖の還元糖の占める割合が少ないのに対してアポプラスト液の糖はほとんどがブドウ糖と果糖の還元糖からなっていた。さらに、浸透圧の経時的変化には差異が認められなかったものの、果汁のpHが生長第3期にはほぼ6.5前後であったのに対し、アポプラスト液のpHは7.5前後を示した。これらの結果より、転流されてきたショ糖は細胞中の液胞に蓄積される前にアポプラストで一端還元糖に分解していることが明らかとなった。しかしながら、アポプラストのpHは酸性インベルターゼ活性の最適pHよりかなり高い値を示し、ショ糖分解に関わる酸性インベルターゼ以外の要因を検討する必要性が示唆された。
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