研究概要 |
本研究は,河川の高水敷を対象に,主に陸棲昆虫類の生息状況を把握するとともに高水敷の環境状態との関連性について言及を試み,高水敷の整備に際しての昆虫類の生息からみた基礎的データの把握,さらには,昆虫類の生息に適した河川環境の創出手法,特に,高水敷を中心とした土地利用のあり方,自然の保全手法等について検討することを主な目的としている。そこで,調査・研究対象地としては,大都市近郊にあって,様々な利用が図られていることにより,流域によって高水敷の環境条件が異なり,昆虫類の生息との関係が把握しやすいものと考えられる多摩川を選定した。 平成9年度においては,平成8年度に実施した文献・資料調査,高水敷の環境状態調査および地表徘徊性の昆虫類を対象とした生息調査結果をもとに,ライトトラップ法による昆虫生息調査を実施した。ライトトラップ調査については,上流,中流および下流部から,其々1箇所,合計3箇所の調査地点を選定し,昆虫類の発生が多い7月から9月にかけて,1箇所につき毎月1回,合計9回の調査を実施した。捕獲された昆虫類は同定・分類の結果,鱗翅目,鞘翅目,半翅目等の昆虫類を中心に,上流部では5目35科90種,中流部では4目20科89種,下流部では3目18科56種,全体では5目39科165種の昆虫類が捕獲された。したがって,全体を通して,人工的な整備が進んでいる下流部よりも自然環境が残存している上流部や中流部における捕獲昆虫が多く,また,特に貴重種は捕獲されなかったものの,この上流部や中流部においては,スズメガ科のような大型のガ類が捕獲された。さらに,上流部では,水質の良好な環境に生息できるカゲロウやトビケラ類も捕獲された。一方,流域別(トラップ別)の捕獲昆虫については,各環境条件との関係から分析を加え,昆虫類の生息からみた高水敷の環境形成等についての検討を行った。
|