ヨトウガは蛹化する時期によって夏型休眠(夏眠)、冬型休眠(冬眠)および非休眠の3つのタイプに分けられる。本研究は3タイプの蛹の生理的性質の差違を調べ、夏眠、冬眠の役割を明らかにすることを目的とし、96年度は冬眠蛹の耐寒性機構について研究を行い、以下の結果を得た。 低温下で増大する物質を特定するために、野外で蛹化した冬眠蛹を-10℃から20℃までの7段階の温度区に置き、体内成分と耐寒性を調べた。血液中からはトレハロースおよびこれまで報告がなかったグルコースがはじめて検出され、両者が出現する温度範囲はずれており、トレハロースは0℃で、グルコースは-5℃でそれぞれピークとなった。血液中から30種類の遊離アミノ酸が検出されたが、温度依存的に変動したのはアラニン、プロリン、グルタミンの3種類であった。プロリン、グルタミンは高温で増大したが、アラニンは温度低下に伴い増大し、0℃でピークとなった。グリコーゲン含量は10℃から-5℃にかけて低下し、トレハロース、グルコースおよびアラニン含量と相反的な変動を示したことから、糖類およびアミノ酸の基質として利用されたものと考えることができる。耐寒性は(-20℃に24時間に置いた後の生存率)5℃から-10℃で高い値を示し、トレハロース、グルコースおよびアラニンのピークと一致し、これらの3つの物質が耐寒性と密接に関わっていることが推察された。今後、野外条件における体内成分の季節推移、耐寒性物質の特定、休眠と耐寒性の関係などの解明が重要であり、それらの課題について研究を進める予定である。
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