本研究は休眠と耐寒性の関係を検討するために、ヨトウガ2様式の休眠生理、とくに夏世代および冬世代の休眠期の確定を行い、夏休眠と冬休眠および休眠と休眠覚醒期の蛹の生理的性質を比較し、以下の結果を得た。 1.休眠覚醒時期は夏世代は8月中旬、冬世代は12月中旬であった。 2.野外条件下において、夏世代のトレハロース含量は休眠、覚醒に関係なく低い値であった。冬世代のトレハロース含量は12月でピークとなり、2月まで高い値が維持され、グリコーゲンとの間で相互変換の関係が示され、耐寒性は休眠覚醒後に高まることが推察された。ヨトウガ血液中から30種類の遊離アミノ酸が検出されたが、休眠期は夏、冬世代ともGlnが多く、覚醒期は冬世代にAlaが高い値を示した。 3.制御された温度条件下(-10〜30℃)で訓化された休眠蛹と覚醒蛹のトレハロース含量のピークは夏、冬世代に関わらず休眠蛹はともに0℃であったが、冬休眠の覚醒蛹は-5℃とより低温下にずれた。グルコースは休眠、覚醒に関係なく、-5℃より検出され、-10℃で高まった。遊離アミノ酸のAlaは休眠、覚醒に関係なく0℃以下の低温下で高まったが、Serは冬休眠蛹のみ低温下で著しく高まった。 以上より、ヨトウガの夏休眠は野外気温が最も高い時期に覚醒し、冬休眠は厳寒期の1月を前にして覚醒することから、休眠は夏の暑さや冬の寒さに対する耐性機構ではないことが示唆された。トレハロース含量は夏休眠、冬休眠の違いに関わらず0℃でピークを示し、耐寒性に2様式の休眠蛹間で大きな差異はないことが分かった。しかし、冬休眠覚醒蛹では、トレハロース含量のピークは-5℃に移り、より厳しい低温に耐える能力が付加されたといえる。厳寒期を前にして休眠が覚醒したが、休眠と低温下でSerの著しい増大が現れることから、こうした条件を回避することが背景にあるものと考えることが出来る。
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