トマトの青枯病に対し、発病抑制効果が示唆された3種類の鉄化合物、すなわち塩化鉄(FeCl_2・4H_2O)、硫酸鉄アンモニウム(FeNH_4(SO_4)_4・12H_2O)および硫酸第一鉄アンモニウム(FeSO_4(NH_4)_2SO_4・6H_2O)の水溶液をトマト品種「桃太郎」の幼苗の根にあらかじめ48時間浸漬処理した後、本病細菌を漬根接種して、接種トマトの茎内での接種細菌の増殖を検討した。その結果、鉄処理トマトでも対照の水処理トマトと同様に茎内接種細菌が検出され、明らかに侵入するが、その後の増殖については処理トマトでは明らかに遅れ、このことが本病の発病抑制の理由と考えられた。また、根に鉄処理をしたトマトの地上部に騎馬穿刺接種を行った結果、本病の発病が遅延したことから鉄処理は全身的に抵抗性を誘導すると考え、誘導抵抗性に関与するとされている酸素パーオキシダーゼ(PO)、キチナーゼ、リポキシゲナーゼ(LOX)の活性変化を検討した。POは前処理終了時から酸素活性が対照区に比較して高くなり、処理鉄化合物の種類により活性の変動パターンが多少異なったが、総合的には処理2〜3日目に活性のピークが見られるが、4日目には一時的に低下する傾向が認められた。その後は再び活性が増加し、5日目には対照区の数倍の活性増加が観察された。一方、キチナーゼは、3化合物処理直後から活性の連続的な増高が観察され、POに見られるような一時的な活性の低下は認められなかった。また、LOX活性についてはPOの活性変動と良く似たパターンが得られたが、POの変化よりは活性の増加の変化が緩やかで、一時的な活性低下の時間も遅れる傾向が認められた。これらPOとLOXの鉄化合物処理後の経時的な酸素活性の変動は、鉄化合物処理トマトに本病菌を接種した場合に茎内で菌密度が一時的に検出限界以下に低下し、その後再増殖する現象と関連がある可能性が示唆された。なお、トマトの特性かどうかは明らかではないが、すべての化合物処理区で同一処理トマトでも個体間で酸素活性の測定値にかなりのばらつきが見られたことから、後者2種類の酸素活性変化については現在も検討中である。
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