研究概要 |
近縁な2種ナガメとヒメナガメは生態的地位が等しく、両種は競争関係にありながら野外では共存している(Morimoto et al,1991)。そこで野外と室内試験によって、両種はなぜ共存できるのかについて明らかにしようとするのが本研究の目的である。1、ナガメの越冬成虫個体群の比率は4月末にはヒメナガメよりも高かったが、その後ヒメナガメが増加し、8月以降にはヒメナガメの比率がナガメよりも高くなり、両種の比率に季節的な逆転を生じた。これは(1)増殖率、(2)卵寄生率、(3)温度が卵から終齢幼虫までの生存と発育に及ぼす影響及び(4)世代数についての両種の間の差によること及びこれが両種の共存に深い関わりをもっていることがわかった。2、ナガメでは休眠には日長が、ヒメナガメでは温度が重要であり、ガメメは9月には休眠に入るが、ヒメナガメは10月でも温度条件が許せば卵を産み続けること、またこれがナガメより1世代多くなる原因になることが明らかになった。3、野外でケージを使って両種の単独及び混合飼育区を設け、人為的に両種個体群の比率をかえて飼育し、種間競争及び各種の種内競争の程度を調べた。ナガメの幼虫がヒメナガメの幼虫の生存率に対し種間競争の影響を及ぼした。また、ヒメナガメの幼虫には種間競争と同時に、種内競争による影響も現れた。一方、ナガメの幼虫の生存率や、両種の成虫の生存率・繁殖率などには種内競争の影響だけが現れた。以上の結果から、ヒメナガメはナガメから受ける種間競争の影響と、高い越冬期死亡率など、ナガメよりも生存上不利である。しかし、ヒメナガメはナガメよりも高い繁殖能力と1世代多い化性をもつことによって、ナガメよりも生存上有利な点も併せてもっていることになる。さらに、ナガメとヒメナガメは種内競争で互いに自らの個体群を抑圧するために、種間競争の影響は弱められ、上伊那地方でナガメとの共存を可能にしていると考えられる。
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